政治ジャーナリスト・泉 宏
「今年の政局は何でもあり」(政治ジャーナリスト)との見方が強まる中、年明けから林芳正内閣官房長官(64)の存在が永田町の注目を浴びている。岸田文雄、石破茂両政権で連続して同職を務め、「ポスト石破」の〝本命〟との声も相次ぐからだ。その一方で、「内閣の要」としての発信力不足も目立ち、「『勝負の夏』までにいかに変身できるかが課題」(同)との指摘も少なくない。
昨年12月14日に就任1年を迎えた林氏の永田町での〝通り名〟は、「政界の119番」。誕生日の1月19日に引っ掛けたものだが、「本人も自認している」(周辺)といわれる。歴任した主要閣僚の多くが、前任の不祥事による辞任や更迭を受けたピンチヒッターでの就任だったのが理由だ。これもあってか、有力者がひしめく「ポスト石破レース」でも、与党内に「当面の混乱回避のための救援投手」(自民長老)の役割を期待する向きも多い。しかし、「総理総裁の座は、中継ぎで務められるほど甘いものではない」(閣僚経験者)との指摘も多く、だからこそ、「トップリーダーになるための覚悟と変身」(同)が求められている。
林氏は政界でも有数の名門家系の4代目となる典型的な世襲議員。参院議員5期を経て衆院にくら替えして現在2期目だが、くら替えの理由が「総理大臣を狙うため」(側近)だったことは広く知られている。現職の官房長官=沖縄基地負担軽減担当、拉致問題担当=は、首相の臨時代理就任順位も第1位という、掛け値なしの最重要閣僚。だからこそ、政界だけでなく一般国民の間でも「次期首相に最も近い人物」(自民幹部)としてその言動も注目される。
〝弾き語り〟から「政局の林」への脱皮を
林氏の閣僚歴を振り返ると、内閣官房長官、文部科学相、農林水産相、内閣府特命担当相(経済財政政策)、防衛相と主要閣僚のオンパレード。さらに閣僚就任に前後して大蔵政務次官、参議院自民党政審会長、自民党経済成長戦略本部座長、同税制調査会副会長などを歴任、こちらも要職ばかりだ。まさに「群を抜く華麗な経歴」(自民幹部)の林氏だが、国民的知名度がいまひとつなのは「自己宣伝を嫌う性格」(同)からとみる向きが多い。昨年12月13日、官邸での定例会見で記者団から就任1年の感想を聞かれた際も「内閣の要として国政全般にわたって政権を支え、政府部内や国会との総合調整などの職責を果たすことに全力を尽くしてきました」などと答弁メモを棒読みし、首相就任への意欲を問われても「この会見は官房長官の立場で臨んでいるものです」とあえて口をつぐんだ。
そもそも、昨年10月1日に誕生した石破政権での官房長官続投も、「水面下での曲折を経ての人事だった」(官邸筋)とされる。というのも、「首相は当初、総裁選での石破陣営の参謀格だった岩屋毅氏(現外相)を官房長官としたい考えだったが、森山裕幹事長ら党幹部が林氏の続投を求めたため断念した」(官邸筋)というのが〝真相〟とみられているからだ。
そうした経緯も踏まえ、ここにきて林氏と極めて親しく林政権誕生を期待している複数の旧岸田派幹部からは、「夏の政治決戦までの半年間が林氏の正念場。今までの慎重居士の殻を破り、中継ぎなどではなく、事あるごとに〝大官房長官〟として宰相を目指す姿勢を打ち出すことが必要」(岸田氏側近)などの〝叱咤(しった)激励〟が相次いでいる。ただ、自民党内では「いまだに、外相時代のビートルズ名曲の弾き語りばかりが話題になる林氏だから、そう簡単に〝政局の林〟に変身できるはずがない」(閣僚経験者)との厳しい声も少なくないのが実情だ。