25年の日本株は「嵐の先に晴れ間」◆年末に最高値、4万3000円も◇第一生命経済研究所首席エコノミスト 熊野英生

2025年01月05日

 トランプ次期米大統領が2025年1月20日に就任する。トランプ氏の政策は、日米の株価にプラスという見方が強かったが、一筋縄ではいかないことが投資家たちにもわかってきた。2025年の日本株は、年前半のどこかで一旦下がってから、その後、上下動をしながら上昇していくシナリオになろう。

一時的な「売られ過ぎ」織り込みを

 トランプ氏の大統領復帰が決まってから2024年12月末までの日経平均株価の推移を振り返ると、11月1日以降の2カ月間は3万8000円から4万円のレンジでアップダウンが2回繰り返されたものの、結果的にみて横ばいだった。株価は当初、トランプ氏の当選確実を受けた思惑によって上がったが、すぐにトランプ氏が打ち出した関税などの弊害が意識されて押し下げられた。そして、米雇用の強さを受けて再び上昇したが、米利下げ予想が後退して12月半ばにかけて下落した。

 人間の将来予測というものは、直線的なものになりがちだ。しかし、実際は直線的には運ばない。短期的には必ず上下動をする。トランプ氏の政策は、刺激的な内容が多く、その発表当初は大きく上がり(または下がり)、少し時間を置いて認識の修正が入って下がってしまう(または上がっていく)。トランプ氏の「ディール」は交渉を有利に運ぶため、開口一番に相手を怯えさせ、次に落とし所を探っていく。相手を恐れさせてから交渉するというスタイルは、株式市場にとっては短期的な上下動の幅を広げてしまう要因になっている。

 トランプ氏は2期目の政権スタートから、1期目より経験値がある分、思い切って政策の色を出してくるだろう。中間選挙は2026年秋までない上、上下両院で共和党が多数派を占めているから、2025年中は批判を恐れずに行動できる。トランプ氏の行動に投資家が慣れていないこともあり、発表された政策への不安感も増長されやすい。株式市場では、一時的な「売られ過ぎ」が生じやすいと心得ておく方がよい。

株価は中長期で上向きへ

 トランプ氏が打ち出した政策の中で、株価に直接的な影響を与えるのは法人税の減税である。企業の配当原資が増えて株価を押し上げるためだ。トランプ氏は、国内で製造する企業の法人税率を現在の21%から15%まで引き下げるとしている。財務長官に指名されたベッセント氏がこれをどう実現するのかが注目される。

 次に、トランプ氏の政策が生み出すインフレ圧力も株価に影響する。トランプ氏が予定する関税引き上げは、中国、カナダ、メキシコに進出した日米の企業にもマイナスだ。就任直後に関税率の引き上げを表明すれば、株価は下がるだろう。関税率の引き上げで米政府が得た税収は、財政支出や減税に回される。

 トランプ氏は財政赤字を増やしてでも、景気刺激策のための財政支出を増やすだろうから、需要が拡大してインフレ圧力を強める。インフレは企業収益を増やすので、時間が経てば株価の押し上げに寄与するはずだ。しかし、2025年前半は、インフレ警戒圧力がFRB(米連邦準備制度理事会)の利下げをやりにくくして、こちらは株価にマイナスに作用する。

 それでも、2025年後半になって、徐々に企業収益が増えてきて、日米の株価は持ち直してくるはずである。中長期的には株価は上向きに転じるとみる。日経平均株価は2025年前半に3万8000~4万円のレンジで推移し、夏場くらいからレンジを上抜けて、年末は4万3000円くらいに達すると予想している。最高値の更新もそのくらいにありそうだ。

1ドル170円うかがう展開も

 さて、日本株への影響にもっとフォーカスしてみたい。トランプ政権は、インフレ率を高止まりさせて、米長期金利も押し上げる。すると、日米の長期金利差は広がって円安になる。2024年夏にピークを迎えた1ドル161円台を超えて、165円を目指す展開になるだろう。

 日本銀行の追加利上げがゆっくりとなれば、170円近くまで行ってもおかしくはない。筆者は、日銀が2025年は1月、7月、12月にそれぞれ追加利上げをするとみている。このペースよりも利上げが遅くなれば、自ずと円安は進むだろう。円安のとき、日本株は上がりやすい。

 円安傾向になるとき、日本には物価上昇の圧力が高まる。過去の企業収益が物価上昇の局面でどう変化したかを調べると、大企業と中堅企業は価格転嫁を進めて経常利益を増やしてきた。これは株価にもプラスだ。

 2025年夏には参議院選挙が行われる。そこで与党が敗北すれば、日本の経済政策は混乱する。野党のバラマキ的な主張が繰り返されて、財政も悪化しかねない。これも円安要因となる。日銀の政策運営も、微妙に慎重化するだろう。

半導体需要の大幅増も追い風に

 日経平均株価は、半導体需要との相関関係が極めて強いようだ。日経平均株価と最も連動性が高いのは、フィラデルフィア半導体株価指数(SOX指数)である。この指数は、米国の半導体製造、流通、販売などの30銘柄で構成され、2024年後半は伸び悩んだ。ここ数年は生成AI(人工知能)ブームを追い風にして急上昇してきたのが、足踏みした格好である。

 半導体需要は2025年に大きく伸びそうなので、大勢として日本株にも追い風が吹くと考えている。世界半導体市場統計(WSTS)の最新見通し(2024年12月)では、2025年の半導体売り上げは、全世界で11.2%の伸びが見込まれている。AI関連のデータセンター投資が活発であるためだ。

 この傾向は日本でも同様で、2025年中に各地で投資が積極化される。WSTSが予想した日本の売り上げは、2025年に前年比9.4%と高い。2023年マイナス2.9%→2024年プラス1.4%→2025年プラス9.4%となり、久方振りに伸びていきそうだ。

 トランプ政権に参加する米経営者にも、IT関連の人材が目立つ。トランプ氏の政策は、そうしたIT系の産業にもプラスに働き、日米の株価にも何らかの好影響を与えるのではないかと先読みできる。日本株の行方は、天気になぞらえると、「嵐の先に晴れ間がのぞく」という感じになろう。

【筆者紹介】熊野 英生(くまの・ひでお) 1967年生まれ。横浜国立大学卒業後、90年日本銀行に入り、調査統計局、情報サービス局勤務。2000年第一生命経済研究所に移り、11年より現職。22年日本FP協会常務理事を兼任。専門は金融・財政政策、為替市場、経済統計。著書に「なぜ日本の会社は生産性が低いのか?」「本当はどうなの?日本経済」など。

話題のニュース

オリジナル記事

(旬の話題や読み物)
ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ