増え続ける不登校、多様な背景の子どもを支援するには

2025年01月30日13時00分

 不登校の児童生徒が全国の小中学校で過去最多の34万6482人―昨年発表された文部科学省の2023年度「問題行動・不登校調査」が教育現場に衝撃を与えている。増え続ける子どもの不登校に、学校教職員やスクールカウンセラー(SC)、地域の関係機関はどう向き合えばよいのか。長年SCとして不登校の子どもに寄り添い、保護者の支援活動も続けてきた東京学芸大学教育学部の松尾直博教授の著書『新時代のスクールカウンセラー入門』(時事通信社)から一部を抜粋・編集し、最新情報を加えてお届けする。

改善できる要因があるケース

 本人の話や周囲からの情報により、具体的で現実的な要因が登校を困難にしていると見立てられた場合は、そうした要因を取り除くことが必要だ。例えば、児童生徒間のトラブルやいじめの場合は、本人の気持ちを確認しつつ、教員がしっかりと関わって改善・解決する必要がある。教員の言動が影響している場合や、授業や課題で過剰なストレスがある場合は、前者は管理職や主任など、後者も複数の教職員で確認するようにして、改善につなげることが大切だ。

 このような現実的な問題が改善・解決されれば、登校して教室で過ごすことが可能になることもある。また、すぐには難しい場合でも、保健室や別室に登校しながら、教室で過ごしたり授業を受けたりすることの安心・安全が感じられれば、やがて教室で過ごせるようになる場合もある。

 一方、先に挙げたような具体的で現実的な要因が、複数の教職員で確認した結果、それほど過重ではなく、登校が難しくなっている児童生徒の不安や感受性の高さが影響している場合も見られる。そうした場合は、本人のつらさに共感的理解を示しつつ、本人の状態や特性に合わせた支援を行う必要がある。

心身の不調が見られるケース

 心身の不調を訴えて登校が困難になっている児童生徒については、養護教諭の関わりや医療機関との連携も重要になる。例えば、最近注目されている疾患として、起立性調節障害(OD)がある。朝起きられない、立ちくらみ、失神などの症状が見られる身体疾患(体の病気)だ。症状は立った姿勢や座った姿勢で強くなり、横になると軽減し、夜になると普通に活動できる場合も多いため、「怠けている」「学校で何か嫌なことがあるのではないか」と見なされ、不登校とされるケースがある。

 他に気付かれにくい身体疾患として、低血圧、低血糖、甲状腺ホルモンなど内分泌系の問題、片頭痛、睡眠障害、過敏性腸症候群(IBS)等もある。本人の気の持ちようで解決することではないと捉えることが大切だ。また、うつ病性障害、双極性障害、不安症等の精神疾患も、登校を困難にする要因としては比較的多く見られる。教育相談やソーシャルワーク的な支援だけでは状態の改善が見込まれないことも多く、医師の判断による薬物療法、休養、専門的な心理療法等が必要になる。

 身体疾患の場合も、精神疾患の場合も、医学的診断ができるのは医師のみであり、教職員やSCが診断できないことについては、十分に注意したい。

安心を与える居場所づくり

 不登校の児童生徒は、安心・安全を感じられ、自分を自然に表現でき、それを温かく受け入れてくれるような「居場所」を求めていることもある。こうした居場所でしばらく過ごすことにより、気持ちが安定し、自信や他者への信頼感を取り戻し、問題を乗り越えたり成長したりすることも少なくない。このような居場所は、何かを強制されたりする場でない方が機能するため、学びやトレーニングはあまり求められない場で、ただ安心・安全を感じ、等身大の自分でいられる場が適している。

 学校内の保健室や相談室、図書室などが居場所としての機能を果たすこともある。小中学校に校内教育支援センター(いわゆる校内適応指導教室)を設置する自治体も徐々に増えつつあり、一部の地域では「校内カフェ」の取り組みも広がっている。

 また、学校外では、中高生向けの児童館や民間が運営するフリースペース等も不登校児童生徒の居場所として機能している。家庭が居場所として機能することも多く、訪問型支援の提供者が家庭に行って児童生徒の遊び相手や話し相手になったり、家庭教育の支援を行ったりすることも有効だ。

必要な学習機会の保障

 学習機会の提供についても改めて考えていく必要がある。ただし、特に欠席し始めてすぐは学ぶことを拒否することもある点に留意したい。しばらく心身を休めてのんびりできた後に学びたいと思い始める場合や、前述の居場所で心の安定や自信を取り戻すことにより学びたいという思いが強くなる場合もある。

 欠席している児童生徒と教員との信頼関係が保たれているのであれば、まずは学級担任や教科担任による学習機会の提供を検討するのがよいだろう。登校が難しくても、授業で使っているワークブック(問題集等)を取り組みたい教科から始めてみて、分からないところを教員が支援するという方法も考えられる。そうした学びを家庭や、学校の別室、校内教育支援センターで行う方法がある。

 学校外での学びの場を活用することも考えられる。自治体が設置する教育支援センター(適応指導教室)には、元教員や教師を目指す学生等がスタッフにいることが多く、学校より自由度が高い環境で学ぶことができる。学びの多様化学校(不登校特例校)は、複数の教員が勤務し、授業の枠組みもあり、児童生徒の学習状況等に応じた指導・配慮が行われる。他に地域によって、NPO法人と自治体とが連携した事業、児童相談所や教育委員会等の「メンタルフレンド」事業、訪問型支援を行っているところもある。家計の負担にはなるが、民間の学習塾や家庭教師を利用することも考えられる。近年、オンライン等を活用した学びの支援も増えてきている。

社会的な自立に向けて

 不登校児童生徒の支援の大きな目標が将来的な社会的自立の支援と考えると、それはキャリア発達支援であるとも考えられる。社会的自立に至る過程は多様になっており、社会が求めている人材も変わってきている。また、不登校を経験した人で、よい人との出会いがあり、学校外の居場所を見つけ、自分に合った学びを経て社会的自立を果たし、活躍している人も増えてきた。

 教職員やSC、教育委員会等は、社会的自立に至る多様な選択肢についての適切な情報提供を行い、そこで生じる児童生徒や保護者の迷いや悩みに寄り添い、必要な助言を行うことが求められている。

 松尾 直博(まつお・なおひろ) 東京学芸大学教育学部教授。1970年福岡県生まれ。93年筑波大学第二学群人間学類卒業、98年同大院博士課程心理学研究科修了。98年東京学芸大学教育学部助手、2000年同講師、03年同助教授、18年より現職。過去に自治体の発達相談心理判定員や母子保健センターの心理判定員、公立小中学校SCなどを務め、同大学付属学校のSCも担当。公認心理師、臨床心理士、学校心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。著書に、『新時代のスクールカウンセラー入門』(時事通信社)など。

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